篆書ー楊沂孫

書法・屋漏痕

篆書、篆刻と言えば、近代では趙之謙や呉昌碩が有名です。どちらも書画篆刻は一流でどちらの書も篆刻も学びました。
お二方共、自分の篆書、篆刻を確立されて後世のお手本となっています。これらを勉強するうちに篆書の好みが私の中で変化してゆきました。呉昌碩が好きで自分の号に碩の字を入れるほどでしたが、色々な篆書を臨書するうちに好みが変化し、その中で出会った篆書があります。

それは石鼓文に結体は似ているのですが、線の感じが今まで習った篆書とはかなり違っていました。特に形に特徴はなく、ともすればつまらなく見える単純な形です。簡単に臨書し終えると思いましたが、しばらく臨書するうちに見方が変わりました。師匠の手本と自分の字がどこか違う‥その頃は結構書き込んでいたことと、臨書数もそこそこ書いていたので少しは自信がありましたが、自分が書くとどうも単調な面白くない字でした。

上手く書けないなと思っていた頃に師匠から教えて頂いた書法に、屋漏痕(おくろうこん)と言う書法があります。屋外の壁を雨がウネウネと左右に揺れながらじわりじわりとつたって行くような様を書法に応用したものです。私に足りないものを師匠は見抜いていました。結局、師匠と私では線の中に込められたものが違っていたのですね。
師匠は書法を説明する時に小さな点を連続して書き点が連続すると線になる
真っすぐなつるつるの線じゃないよ。と言われました。よく意味が分からぬまま師匠が書く筆先を見つめ勉強していました。
私の書は薄っぺらくただ単純な線でした。美しい造形の文字でなくても書の奥深さは線でも表現できる。それから楊沂孫が大好きになりました。楊沂孫自体が屋漏痕を多用しているわけではありませんが、その書法のお陰でわたしの書に深みが出た事は間違いありません。
得意な篆書はと聞かれると「楊沂孫」ですと答えるでしょう。篆刻に対しても少し考え方が変わった思い出深い書です。

それから何年か経ったある日、師匠が私の書を見ながらポツリ‥「中国で屋漏痕を語る人は多いが理解するものは数人しかいない‥。」果たして私は理解出来ているのでしょうか?。


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篆書・篆刻創作 間気庵 伊藤浥碩



2020/8/29